【『躍進するインドの産業 インフラ・自動車・エネルギー』 レポートサンプル】
「第1章 インドの経済・投資動向と日系企業の進出状況」 より
新興国の中で中国に次ぐ成長市場として熱い視線を集めるインド。高い経済成長を維持し、世界からの投資を集めるとともに力を蓄えたインド企業が世界市場で競争を展開し買収に乗り出している。インドのインフラ、自動車、エネルギーといった注目産業を見ていく前に、こうした産業を支えるインドの経済・ビジネス動向、投資先としての可能性と強み、また政府の政策を概観する。さらにインド市場で新たな展開を始めた日系企業の動きをまとめた。
1 インドの経済と産業の動向
(1) インドの経済動向
国際通貨基金 (IMF) によるインドの2010年の名目国内総生産 (GDP) は約1兆5,380億ドルで、世界10位だった (図1参照)。購買力平価 (PPP) で見たインドの2010年度 (2010年4月~2011年3月) のGDPの予測値は約4兆ドルで米国、中国、日本に次いで世界4位につけている。2008年の金融・経済危機からの立ち直りも早く、GDPの成長率は2008年に5.1%と前年の9.6%から落ち込んだものの、2009年は7.7%を達成した。2009年の世界の平均GDP実質成長率がマイナスに沈む中で、インドは成長力を見せつける形となった (図2参照)。
2011年も中国に次ぐ成長率を維持
インド中央統計局によると2010年度のGDP実質成長率 (2005年度ベース、速報値) は8.0%、2011年度は8.6%で緩やかな拡大が期待されている。IMFは2011年4月に発表した2011年度のGDP成長率予測で、インドの成長率は8.2%と中国 (9.2%) に次ぐ2位の座を維持し、世界平均 (4.4%) のほぼ倍のスピードで経済が拡大するとの見通しを示している。IMF は、2011年から2016年までのインドの
成長率が年平均8%前後の高い水準で推移するとみている。すなわち5年間で経済規模が約1.5倍になる計算だ。
インドの経済成長は、国内需要の急速な伸びに支えられている。これは、消費と投資の両方がバランスよく増加したことによるもので、今後もこの傾向はしばらく続くとみられている。IMFは、投資の対GDP比率は2000年の22.9%から2010年には34.7%に上昇し、さらに2016年までに45%近くまで拡大すると予測する。外国直接投資 (FDI) の急増に加え、近年の高成長を背景に国内貯蓄率も高まっている・・・(以下略)
(第1章 掲載図表サンプル)
■ [図] 対インド投資の国別内訳 / インドFDI 流入先のセクター別内訳
「第2章 成長のカギを握るインフラ整備」 より
急速な経済成長を遂げているインドだが、その足かせとなっているのがインフラの脆弱性と指摘されて久しい。安定した政治、豊富な人材、巨大な成長市場など好材料が揃う一方、経済活動のバックボーンとなるインフラ整備は過去の投資不足で、あるべき姿から10年以上の遅れがあると言われている。交通インフラの老朽化や不備による損失は年間450億ドルに上ると推定されるほか、産業施設では停電に備えて自家発電設備が不可欠という状況だ。企業が直接投資先を決める際、賃金水準と並んでインフラは重要な要素であり、インドの投資信頼度が中国より低いことにも、インフラ状況の悪さが影響している可能性がある。交通、電力などインフラ整備を早急に進めることがインドのさらなる発展の鍵を握っている。
1 インフラ整備の現状と可能性
(1) 加速するインフラ投資
インド政府が2011年2月に発表した2011年度予算では、インフラ投資に前年比23.3%増の465億ドルを充てることが明らかになった。政府は同時に、官民パートナーシップ (PPP : Public Private Partnership) によるインフラ事業の促進策を策定すること、年度内にインフラプロジェクトの資金調達を目的とする国債を65億ドル発行することなども打ち出した。2012年3月に終了する現行の第11次5カ年計画の目標達成に向けてラストスパートをかけるとみられている。
次期5カ年計画ではGDP比10%
第11次5カ年計画では期間内のインフラ投資額を4,940億ドルとしていたが、最初の2年間の実績を基にした中間報告で投資額が想定を上回ったことから、最終的な実績は5,140億ドルに上ると予測されている。これは、GDP比で7.6%の水準で、第10次5カ年計画 (2002~2007年度) の実績であるGDP比5.2%から上昇している。なお、インドではインフラ建設を支える原油、石油製品、石炭、電力、セメント、鉄鋼をインフラ中核産業と位置付けている。この6産業が鉱工業生産全体に占める割合は26.7%で、2010年10月~2011年3月の半年間の成長率は前年同期比7.6%に上った。
インフラ整備への積極投資は、今後も続くとみられている。政府の計画委員会 (Planning Commission) が2011年4月に開催した第12次5カ年計画 (2012年4月~2017年3月) の策定会議で、同期間のインフラ投資はGDP比10%に伸長するとの見解を発表し、インフラ投資を加速させる意向を明らかにした。同期間のGDP 成長率 (目標値) は9~9.5%に設定される見通しで、インフラ投資総額は1兆ドルを超える。このうち、民間からの調達分を差し引いた公的資金の注入額は4,099億ドル (2006年度を基準とした実質価格) で、現行5カ年計画期間内の2,623億ドル (同) から実質年率9.3%増加すると予測されている。
一方、インフラ整備が計画より遅れる可能性と、それに伴う成長鈍化を警戒する声もある。コンサルティング大手マッキンゼーは第11次5カ年計画の最初の2年間の実績を基に2009年に発表した報告書で、プロジェクト認可の・・・(以下略)
(第2章 掲載図表サンプル)
■ [図] 電話加入件数の推移/電話普及率の推移/携帯電話オペレーターの市場シェア
「第3章 拡大期に入った自動車の市場と産業」 より
インドの自動車市場が急速に拡大している。2011年上半期は利上げの影響などから減速傾向にあるものの、依然として2ケタ台を維持している。長期的には乗用車の販売だけで2020年には少なくとも600万台、楽観的な見方では1,000万台との予想も出ており、世界2位の自動車市場に浮上する可能性も出てきた。自動車生産でも世界の自動車メーカーの小型車戦略を左右する市場となり、新たな輸出拠点としての重要性が増してきた。ここではインドの自動車産業について四輪乗用車を中心に今の動きと統計、自動車メーカー各社の動向をとらえる。
1 インド自動車市場・産業をめぐるトレンドと可能性
(1) インドの自動車7つのトレンド
インドの自動車市場・産業で何が起きているのか。これをとらえるためのポイントを7つに絞って示した。インドが世界の自動車産業で大きな位置を占めてきたことがわかるだろう。
1. 価格50万ルピー未満での戦い
2008年にタタ・モーターズが発表した超低価格車 「ナノ」 は、世界の乗用車メーカーの新興市場における小型車戦略で一種のパラダイムシフトをもたらした。各社は根本的に発想の変革に迫られたのだ。生産コストを抑え、機能を絞り込んで1台10万ルピー (約20万円弱) という価格は衝撃的だった。「ナノ」 は別格としても、インドは小型車の割合が60~70%に達するうえ、売れる価格帯は50万ルピー未満だ。スズキの現地子会社マルチ・スズキや現代自動車、タタといった大きなシェアを握るメーカーもこの価格帯で勝負している。
フォードやフォルクスワーゲン (VW)、ゼネラルモーターズ (GM)、そしてトヨタもこの価格帯でインド向け小型車を投入すると同時に急速に販売を伸ばしたことで、いかにこの価格の壁が厚いかが証明された形だ。しかも安いだけではなく、製品価値が価格相応以上に高いことが求められる。要求されるコストパフォーマンスでは非常に厳しい市場だ。
徹底した市場調査に基づいてニーズをつかむとともに、この価格を実現するにはコストの削減、すなわち部品の現地調達率の引き上げが必要になる。外国メーカーでも80%~90%の調達率を実現しており、これまでの部品調達を見直すことから求められる。
2. インド基準の小型車が世界戦略車に
インドの消費者が求めるような乗用車を作り込んでいくことは、上記のように車の機能や部品調達を見直してコストを抑えながらも価値を維持するという難題を解決する作業になる。特に小型車は利幅が薄いだけにコスト管理を徹底する必要がある。しかし、このインド基準とも言える小型車が、実はこれから世界中で拡大する新興市場に向けた車づくりのノウハウを提供することになり、先進国市場でも十分に通用する売れる車ができる。小型車の世界戦略車が世界展開のカギとなる中で、インドはその実力を試す最適な市場となってきた。・・・(以下略)
(第3章 掲載図表サンプル)
■ [図] 自動車販売の上位10カ国/インドの乗用車販売のメーカー別シェア
「第4章 需要急増するエネルギー」 より
インドの経済成長にとって最も重要なインフラの一つは言うまでもなくエネルギーだ。急増する需要に追いつかず、慢性的な電力不足に悩まされており、発電および送電インフラの増強が急務となっている。一方で、エネルギー安全保障と温暖化防止の観点から、化石燃料による発電を大きく増やせばよいという訳ではない。
インドは急激な成長の中でこれらの問題をどう克服するかという難しいという課題に直面している。インド政府は今後、火力を中心とした従来型電源に加えて、再生可能エネルギー利用を促進する計画だ。すでに風力発電では世界有数の規模に達しているが、将来に向けて、風力に加え、出遅れている太陽エネルギー利用も積極的に進める。太陽エネルギーでは、太陽光だけでなく太陽熱利用にも注目が集まる。さらに、鉄鋼やセメントなど産業部門におけるエネルギー効率向上も重要な課題だ。
1 エネルギー分野の状況
(1) エネルギー消費の構造
世界4位の規模、一人当たりでは少ない
まず再生可能エネルギーを含めたインドのエネルギー全体の状況を概観する。国際エネルギー機関 (IEA : International Energy Agency) の統計によれば、最新データのある2008年のインドのエネルギー消費量 (一次エネルギー供給量1) は約6億2,100万石油換算トン (TOE) で、米国、中国、ロシアに次いで世界第4位の規模だった。第5位の日本よりも約25%多い。世界的にみるとインドはすでにエネルギー消費大国、二酸化炭素 (CO2) 排出大国である。
もっとも一人当たり消費量に注目すると様相は全く異なる。インド (0.54TOE) は世界平均 (1.83TOE) の3分の1以下、先進国 (OECD平均で4.56TOE) と比べると約8分の1に過ぎない (図29)。一人当たりの消費量は少ないが、人口が巨大であるため国全体の消費量は大きくなっている。・・・(以下略)
(第4章 掲載図表サンプル)
■ [図] インドと各国のエネルギー消費量の比較
■ [図] 電力供給の不足率