▼ 『日本モバイルNFCペイメントの展望と課題』 エグゼクティブサマリー
もはやNFCは、黒船と呼ぶには陳腐な感がするほど、国内市場に入ってくることが既成事実化されている。国際標準であるこの非接触通信技術を使った伝送技術は、日本市場では類似技術のFelicaが国内でデファクトを勝ち得た。しかし、「おサイフケータイ」 として7年近くモバイル電子マネーのインフラを担うものの、特に決済スキームの関連プレイヤー達は赤字に喘ぎ、交通系以外のすべてのステークホルダーを満足させられるエコシステムをまだ確立できていないのが現状である。
理由はいくつか考えられる。決済ブランドのスキームが多すぎる点やユーザーの認知度不足などがそれである。決済ブランドが多すぎる背景には、それ自体の問題よりも、それぞれ独自の決済インフラやリーダ端末を敷設しているために業界全体でインフラを含む高コスト体質から抜け出せずにいる点を指摘されており、それを解消すべく端末やネットワークの相互利用が進んでいる。ユーザーの認知度不足は以前から指摘されているものの、エコシステムの構造的な問題点から見ると大きな原因ではない。
NFC自体は、単なるFelicaの代替技術でしかない。そのため、想定される事業モデルやアイデアもFelicaの現状を超えるほどではない。つまりNFC技術が、まったく新しい斬新な市場の創出につながることを意味するものではないということだ。しかし、それでもNFCが注目を集めるのは、国際標準である技術の相互互換性・運用性が、Felicaでは叶えられなかった大きなインパクトを既存のエコシステムに与えることが期待されているからである。
つまり、おサイフケータイの利用が伸び悩んでいるのは、高コスト体質という事業構造そのものであり、国際標準ではないガラパゴス技術であるとする理論だ。逆にいえば、FelicaをNFCに変えることで、低迷する業界に大きなプラス要因がもたらされる可能性は非常に高いと言える。
国際標準のNFCに変えることで、インフラの敷設コストは劇的に安くなるであろう。それによって利用店舗が面展開で増え、利用機会も増えることになる。Felicaではクーポンやポイントの利用企業が伸び悩んでいた中、NFCでは中小企業も含めて多くの事業者がサービスを提供できるようになると期待されている。
これにより、2011年後半からNFCフォンが国内でも登場すると仮定した場合、2016年にはFelicaと共存しながらもNFC技術を使ったモバイルペイメント市場はポストペイド型を中心に500億円規模を上回ると予想される。仮にスマートフォンを中心にNFCフォンの出荷が大幅に増加し、FelicaからNFCへの急速な移行が進めば、この市場予測はさらに大きく上方修正されることも予想される。
[図] モバイルNFCペイメント市場規模予測 (2011~2016年)
予測値においては、分野をID認証サービス、クーポン、ポイント、(クレジットカード)決済およびその他の4分野に分けて積算した。ID認証では単なる会員証発行から入退室管理に至るサービスまでを含む。クーポンやポイントはいずれもNFCチップ搭載の携帯電話を使った「かざす」ベースのサービスを想定し、クレジットカード決済およびその他については、ポストペイドだけでなくプリペイドも可能性として含まれることにした。ただし、想定される決済サービスとしては、国際互換性のトレンドからクレジットカード情報と紐づいたポストペイド型のサービスが主流となる見込みだ。
本レポートを作成するにあたっては、業界関係者に対する十分なヒヤリングと分析モデルに基づいた予測をベースにしている。また、各サービスの定義や想定される事業モデルも可能な限り詳細に解説することで、今後のNFCベースの新規事業の参考となれるよう配慮した。本レポートが、NFC技術をベースとしたサービス市場の興隆と参入プレイヤーの一助につながれば幸いである。