▼ 『エマージングデバイスの進化方向性と戦略課題』 エグゼクティブサマリー
米Amazon.comの電子書籍端末 「Kindle」 が、市場で善戦している。2004年当時に日本国内の電子書籍市場から撤退したソニーも、米市場でAmazonと共に気焔をあげている。そこへITメーカーの寵児であるアップル、韓国勢のサムスンやLGも加わって専用端末は世界規模で過当競争の体をなしてきた。もちろん競争を煽った端末はiPadである。
しかし、業界関係者やアナリストの見解としては、むしろ先行的に騒がれるiPadよりも、Amazonのビジネスモデルに驚愕を覚えているに違いない。独自の専用端末を投入し、強い交渉力を背景に通信事業者から特別のデータ通信契約を引きだし、ユーザーには何の追加的な通信契約も強要させずに60秒以内でお目当ての本を購入させる。業界最大手の書籍コンテンツアグリゲータが、ここまでエコシステムを構築できた背景を考察すると、今後のハードウエア事業は大きな戦略転換のうねりを感じざるを得ない。
事実、あれほど騒がれたネットブック市場は携帯電話とA4型ノートブックの狭間市場を席巻したが、2009年後半からはやや失速感が否めない。単に販売奨励金の影響を受けた階段の踊り場的な一服感なのか、あるいはこのまま消滅するのかは、実はその周辺で勃興しているエマージングデバイスと無関係ではないはずである。その1つが先ほどの電子書籍端末であり、あるいはiPadのようなタブレット型端末などである。
携帯電話と上位ノートブックの狭間市場で興隆するこの新規エマージングデバイス市場を考える時、これまでとは違うビジネスモデルを感じざるを得ない。その市場の見方を分析する際、ROAではネットブックという既存のエマージングデバイスが1つのベンチマーク (基準点) として捉えられると考えた。
[図] エマージングデバイスのビジネスモデル領域
![【図】エマージングデバイスのビジネスモデル領域[エマージングデバイスの進化方向性と戦略課題]](/upload/handload/img/roa_emdv_img1.jpg)
一般的にネットブックとは、世界市場で活躍する端末メーカー各社が新興市場向けに開発を図ったWindowsデバイスとしては、商業的に利益を確保できる最も安価な端末であると言える。つまり、縦軸に価格帯 (機能)、横軸にディスプレイサイズを設定した上図グラフに端末分野をプロットすると、ネットブックは携帯とノートブックのちょうど中間に位置すると考えられる。
このネットブックをベンチマークの起点として市場分析した場合、ネットブックと携帯 (スマートフォン) の間の市場は垂直統合型であり、かつコンテンツとデバイスが非常に親密な関係を築いてUser Experienceを創出しなければならないエコシステムの競争領域であり、一方のネットブックとノートブックの間の市場は既存のWindowsパソコン市場に類似し、コンテンツとデバイスの関係が水平分離された汎用性の富んだ市場であると結論付けられる。
この分析に基づいて、ROAでは主要端末メーカー数社とのディスカッションや自社内の問題意識を独自に発展させ、特にエマージングデバイス市場と言われるこの狭間領域において想定されるビジネスモデルの進化方向性についてまとめたのが本レポートである。従って、既存市場における端末の事実分析よりも、今後の市場規模予測も含めたビジネスモデル分析とインプリケーションに主眼を置いた点をご了承願いたい。
[図] エマージングデバイス市場規模予測 (出荷台数、2010~2015年)
![【図】 エマージングデバイス市場規模予測 (出荷台数、2010~2015年)[エマージングデバイスの進化方向性と戦略課題]](/upload/handload/img/roa_emdv_img2.jpg)
ROAでは、エマージングデバイス市場の市場規模を予測するにあたり、今後勃興する多種多様な端末群を大きくノート型、スマート型、タブレット型に区分し、2015年までに想定される独自のロードマップ・シナリオを前提に積算を試みた。
主な前提条件としては、ネットブックとCULVノートは共にノート型に含めており、一方でWi‐Fi機能のみのポータブルゲーム機や携行音楽プレーヤーなどはエマージングデバイスの定義に含めていない。また、最近注目を集めるSIM搭載型のフォトフレームも、本レポートにおいてはエマージングデバイスの定義から外れているため市場規模には加えていない。
定義を含む詳細は本文記載のためにここでは割愛するが、本レポートがこの狭間市場においてエコシステムの確立を目指すプレイヤーの一助となれば幸いである。