▼ 『ホームICTサービス市場の展望と課題』 エグゼクティブサマリー
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ホームネットワーキングが次の主戦場として注目されてきた。リビングルームを掌握するベンダーが、長きにわたって家庭内のエコシステムを構築できるとの考えであった。
ところが2000年代中頃まで、思いのほかホームネットワーク市場に光は当たっていない。家電メーカーはリビングルームだけでなく、家屋の設備機器までをネットワーク化した安全・快適・便利なシステムを提供し続けたが、その多くがホームセキュリティ製品や関連サービスにとどまっており、真の意味でのホームネットワーク・アプライアンスという意味では思ったほど需要喚起に結び付いていない。
背景には、家内に設置されている機器同士の互換性や拡張性、相互接続性などの課題があった。各メーカーが独自の方式で囲い込みを図った提案は、マルチベンダーの機器が当たり前のユーザー環境にそぐわなかったのである。自社だけで独占展開を図ったため、エコシステムの構築がうまくいかなかったと言い換えてもいい。その後、業界側も協力して複数の標準化に奔走し、AV機器やコンテンツ系では高速通信のDLNA、家電制御系では低速のECHONETが上位プロトコルの標準化として認知されてきた。しかし、それらを統合的かつ拡張的に利用できるプラットフォームがなく、相互接続性が十分確立できていたとは必ずしも言えない状況であった。
そんな中、ホームネットワーク市場に再び脚光を集める環境が育ってきた。トリガーとなったのが、薄型テレビの普及とIPTVのコンセプトであり、それを後押ししたアナログ停波の政策である。ネット家電が普及に結びつかなかった中、LANインターフェイスの付いたテレビの登場は、NGNの展開と相まってホームネットワーク市場に再び光を当てることとなった。
さらにNTTはじめ、ベンダー各社が提唱するOSGi技術ベースのOSAPや 「ホームICT」 コンセプトが、これまでの互換性や拡張性、相互互換性といった問題をある程度解決するプラットフォームとして業界標準化の地位を獲得した。2009年末におけるNTTのテストベッド提供と賛同企業の多さを考えると、まさに2010年がホームネットワーク成長元年として感じさせるに十分なトレンドであろう。
以上の点を鑑み、本レポートにおいてはNTTの 「ホームICT」 コンセプトを中心に、将来的に考えられる事業収益モデルや今後の方向性について分析し、ソフトウエア/サービスの市場規模について算出を試みた。
[図] ホームICTサービス市場規模予測 (2010年~2015年)
![【図】ホームICTサービス市場規模予測 (2010年~2015年)[ホームICTサービス市場の展望と課題]](/upload/handload/img/roa_hict_img1.jpg)
実際のサービス開始は2010年下半期になるとみられるが、当初予定されている遠隔セキュリティ (監視) システムは需要の高いサービス分野であるため、順調な普及が期待される。警備会社によるセキュリティ専門サービスだけでも、すでに100万世帯以上が加入している市場であるため、その半額以下で提供できる遠隔サービスの普及期待値は高いと考えられる。
また、NTT東西による月額500円のPCリモートサポートがすでに150万件を獲得しており、これらメインテナンス関連のサービスが今後OSGiベースに移行することが予想されるため、ホームICT市場におけるセキュリティ関連分野に次ぐ牽引サービス分野として期待されている。
その後、AV機器連携によるコンテンツ (メディア) シェアなどのサービスも登場する中、2012年の夏季オリンピックや2014年のワールドカップといったプログラムが市場を牽引し、2015年のCO2削減目標を目指したHEMSの普及なども想定すると、最終的に2015年には500万世帯が何らかのホームICTサービスを利用するものと思われる。
OSGi技術はリリースを重ねるごとに拡張され、一般世帯の枠を超えてSOHOやオフィス、工場などでの利用も想定されているほか、対象デバイスも家電や AV機器から家屋設備を越えてモバイル機器等へも浸透が期待されている。しかし、本レポートでは純粋に一般世帯を対象としたB2CもしくはB2B2C市場を調査範囲に限定して分析した。また、市場規模選定にあたっては、ネット対応アプライアンス市場やホームネットワーキングに伴うネットワーク機器やプラットフォーム関連機器等の市場はあえて除外し、プラットフォームの普及に伴うソフトウエア/サービス市場のみに焦点を当てている。
NGNのキラーサービスとしてIPTVやテレビ電話が叫ばれてから久しいが、今後のNGNの起爆剤としてホームICTが最も期待されている分野の1つであることは間違いない。家電やAV機器をダイナミックに活用する同市場には今後多くの事業可能性が期待されることから、本レポートがその可能性を追求する一助となれば幸いである。