▼ 『中国ハイアールとレノボのグローバル戦略分析』 エグゼクティブサマリー
中国の代表的な企業ハイアールとレノボは、中国の改革・開放政策の下で最も成功した企業であるが、世界ではまだあまり知られていない。企業の規模からみると、日本の大手家電メーカーとは比較にならないほど小さいが、短期間での急成長ぶりは日本の企業を追い越す勢いである。また、ハイアールとレノボがカバーする市場は中国国内からグローバルへと移行中であり、日本の家電、情報機器メーカーにとって強力なライバルになりつつある。
[図] ハイアール、レノボと日本メーカーの売上と営業利益 (2006年)
![【図】ハイアール、レノボと日本メーカーの売上と営業利益[中国ハイアールとレノボのグローバル戦略分析]](/upload/handload/img/roa_chhr_img1.jpg)
ハイアールは1984年から2006年まで、総売上 (グループ連結売上高) の成長率が年平均80%を上回る勢いで急成長を続けてきた。2006年のグループの総売上は、16,848億円で前年比7.3%増加、営業利益は557.1億円である。2006年から本格的なグローバル戦略を打ち出し、積極的に海外市場に進出している。特にアジア、新興市場における市場シェアは順調な伸びがみられる。
レノボのIBMパソコン部門の買収については、各方面から失敗だと懸念の声が上がったが、2年経った現在は売上を順調に伸ばしている。2006年の売上高17,345億円で前年比10.1%増加、営業利益は492億円を記録している。パソコンの販売量も12%増で世界の増加率10%を若干上回っている。レノボは本部を中国国内とアメリカに構え、IBMのパソコン部門とも融合を進めながら、欧米での販売台数を徐々に伸ばしている。
中国を代表する企業であるハイアールとレノボ両社は、グローバル戦略の成功により5年後の2012年には現在の売上高の3倍である6兆円まで成長すると予測されており、日本企業は少なくとも今後10年間は両社の動きから目を離せなくなるだろう。
[図] ハイアール、レノボと日本メーカーの製品別シェア (2006年)
![【図】ハイアール、レノボと日本メーカーの製品別シェア[中国ハイアールとレノボのグローバル戦略分析]](/upload/handload/img/roa_chhr_img2.jpg)
ハイアールとレノボの製品別世界シェアランキングにおいては、ハイアールの主力製品である冷蔵庫、洗濯機、エアコンのランキングは多くの日本メーカーを追い越し、世界シェアの上位に位置している。レノボは日本の大手PCメーカーを遥かに上回り、世界3位まで昇りつめた。ハイアールとレノボは巨大な中国市場だけではなく、先進国や新興市場である発展途上国にも積極的に参入している。このような両社のグローバル戦略により、今後の世界シェアはさらに拡大し、日本の家電、PCメーカーを大きく引き離すと予想される。
ハイアールとレノボは設立から22年の若い会社だが、これまで急速な成長を遂げてきた。日本の家電メーカーと比較するとまだ規模は小さいものの、このような短期間で日本のメーカーを追い抜いてきた力は非常に脅威である。
両社は今後の戦略について、日本メーカーの過去のグローバル戦略を踏まえながら、独自の経営戦略とグローバル戦略を打ち出している。日本のメーカーのほとんどは100年以上の歴史を持っており、技術力、経営力面でも優れているが、歴史の浅い中国企業の経営力では、単純に国内での成功が海外でも通用するとは限らない。しかし新興市場への進出に関して中国政府が20年前の開放・改革政策と同様に積極推進する場合、中国企業としてはもちろん進出がしやすくなるだろう。
日本企業は長らくグローバル戦略で大きな成果を挙げてきたが、バブル崩壊後近年までデフレが続き、日本経済が低迷しているうちに韓国のサムスンやLGに追い抜かれてしまった状態である。最近になって日本の経済にもようやく明るい兆しが見え始めてきたが、ハイアール、レノボなどの中国企業が急成長を遂げ、中国市場だけではなくグローバル戦略も打ち出すなど、世界市場において日本企業のライバルになりつつある。 今後ハイアールとレノボは、日本、韓国企業に追いつくためにM&Aという新たな手段で技術力、ブランド力、世界市場シェア、人材を確保していくことが予想される。
21世紀に入ってからの代表的な事件の1つにレノボのIBMパソコン部門の買収が挙げられるが、これは中国政府の 「走出去」 (積極的に海外に出ていく)、「走進去」 (海外市場に浸透する)、「走上去」 (海外市場の主流になる) という国策に後押しされたといってよい。今後、中国企業の資金力、経営力、技術力の強化、また政府、金融機関の全面的な支援を得て、これまでにも増して積極的に海外に進出していくものと思われる。
~ 調査範囲 ~
本レポートは大きく5部で構成されている。第1章は、ハイアールとレノボの成長及び2006年の決算内容を詳細に分析し、第2章では、ハイアールとレノボのマーケティング戦略と製品戦略について分析を行なった。ハイアールとレノボのマーケティング戦略については、中国国内のマーケティング戦略と海外のマーケティング戦略を分けて分析する。また製品戦略については両社の主力製品と今後の製品戦略を分析する。第3章では、ハイアールとレノボの人材育成戦略について分析を行う。ハイアールとレノボの独特な人材育成方法、人事管理等について日本の家電メーカーと比較しながら分析する。第4章では、ハイアールとレノボの経営戦略とグローバル戦略を分析する。ハイアールの中国国内におけるM&A戦略とレノボのIBMパソコン部門の買収劇、そして今後の戦略について分析する。第5章では、ハイアールとレノボが今後中国国内市場からグローバル市場へ中心を移行するにあたり、日本の関連企業のライバルになりつつある状況を説明し、今後の両社の注目すべき動向を指摘する。
~ 調査方法 ~
本レポートではプライマリーリサーチとセカンダリーリサーチを並行して行っている。プライマリーリサーチとして関連企業とのEメールインタビュー、専門家とのインタビューを同時に進行した。セカンダリーリサーチとしては、ハイアールとレノボの公開資料と関連文献、各製品にかかわる業界紙、中国内外のさまざまなメディアの分析記事など収集し、分析を行なった。