▼ 『アジアの企業戦略分析シリーズ シャープ編』 エグゼクティブサマリー
1-1 レポートガイドライン
日本企業の第1弾は、日本を代表する製造メーカー大手のシャープ株式会社である。2000年当初の日本の景気低迷の中、同社は液晶技術を武器に市場を席巻し、大手家電メーカーやエレクトロニクス企業が業績低迷に喘ぐ中で驚異の二桁成長率を実現し、そのままの勢いで現在に至る。その同社の成功は、日本IT市場の大きな 「謎」 だと語り継がれる一方、デバイス市場で展開する同社のしたたかな戦略には、そういう世迷言を一掃するだけの明らかなヒントが垣間見える。例えば以下の点である。
・ アイデア性の高いユニークなデバイスを市場投入
・ 分散型生産が定着する家電業界において、国内に一貫生産型の巨大工場を建設
・ モノづくりにこだわる技術力
これらのポイントは、しかしながらシャープという一風変わった日本企業を詳細に分析すれば、すべて合点がいくことである。アイデア性の高いユニークなデバイスを市場に投入できるのは、製造メーカーでありながら消費者に近い位置で市場を的確に把握する同社の姿勢がうかがえ、そのアイデアを実現するための組織横断的なチームワーク (スパイラル戦略) の存在が挙げられる。国内に巨大な亀山工場を建設したのも、大型液晶パネルという特殊なデバイスをいち早く製品化して市場投入しつつ、一方で生産ライン管理の簡素化や知的財産保護の点からも最善の方法であることに気が付く。しかも、液晶から一貫生産でTV製品まで作り上げてしまうことで、「亀山モデル」 というブランドの副産物まで手に入れた。モノづくりにこだわるその技術力は、それを可能にしている同社のオンリーワンを目指す社風と組織体制に寄与するところが非常に大きい。
まさにこれらの特色を考慮すると、シャープという企業のユニークさは同社が目指す 「オンリーワン企業」 の理念に合致しているように思う。だからこそ、競合他社の業績が振るわない中、売り上げの驚異的な伸びもさることながら、その確実な純利益増が戦略の成功を物語っているといえる。
ただし、シャープの中・長期的な将来性はどうであろうか。液晶が最大のコアコンピタンスである同社にとって、FPD市場という巨大な海原に製品を投入し続けることだけが戦略であるならば、あまりにも市場頼みと言わねばなるまい。技術革新が目覚ましいFPD市場が、向こう10年間も液晶TVをキラー製品として受け入れてくれるかどうかは不確定要素と言わざるを得ない。同社の次世代戦略こそが、今後の持続可能な成長の鍵となるであろう。
1-2 評価基準
本シリーズでアジアの注目すべきIT、通信関連企業を分析するにあたっては、最終的に左図の項目について包括的に体系化することを目的としている。以下、各項目の評価基準を述べる。
情報開示性・株主利益 :
情報開示性が高く株主利益を優先している場合は[5]、配当や情報開示もなく株主を軽視している場合は[1]
財務諸表 :
財務諸表の内容が良好な場合は[5]、悪い場合は[1]
人事・組織・社風 :
組織人事体系や社風にこだわらず、目標達成のために機能的かつ効率的であれば[5]、体系的な制度が曖昧であれば[1]
企業ブランド力 :
ブランド価値が製品・サービスに好影響がある場合は[5]、影響が少ない場合は[1]
市場浸透性・国際性 :
主力商品・サービスの市場(国際)シェアが高い場合は[5]、ニッチ市場に特化している場合は[1]
差別化 :
主力商品・サービスに高い差別化がみられる場合は[5]、他社と類似しながらコスト戦略重視の場合は[1]
外部・市場要因 :
他社の参入動向や市場の経済性、サプライヤーやバイヤーとの力関係など、外部要因で有利な場合は[5]、不利な場合は[1]
コアコンピタンス :
対象企業の競争優位点が明確であり他社より優れている場合は[5]、優位性が弱っている場合は[1]
ビジネス戦略 :
現在および将来にわたるビジネス戦略が優れている場合は[5]、見通しが不明瞭な場合は[1]
[図] 企業評価シート
![【図】企業評価シート[アジアの企業戦略分析シリーズ シャープ編]](/upload/handload/img/roa_acsa_shp_img1.jpg)
1-3 分析方法
本レポートは前ページの分析項目を評価するために、調査分析手順を左図の5段階に分類した。まず第一段階では対象企業の現況や情報開示性を商品構成や組織図、関連会社などから把握する。
第二段階では近年における財務状況 (主要部門の売上、コスト、収益性など) を分析し、第三段階で商品/サービス別の特性やポジショニングなどを整理する。
これらの基本情報を基に対象企業の内部要因であるコアコンピタンスを抽出し、最終的に外部要因を分析して定量的なSWOT分析の算出に落とし込む。また、TOWSマトリクスを通して現在および将来の戦略について分析し、対象会社の将来優位性や今後の方向性を把握するとともに、ROA Groupが考える企業分析の基準項目に対して定量的な最終評価を加える。
なお、本レポートの第一段階-第三段階の一部までのデータは対象企業のIR資料、その他の公式データ、証券会社などの分析結果などを基に作成されており、第三段階の一部から最終段階まではROA Group独自の分析手法で構成されている。
[図] 企業分析方法概念図
![【図】企業分析方法概念図[アジアの企業戦略分析シリーズ シャープ編]](/upload/handload/img/roa_acsa_shp_img2.jpg)